魚野川の幽霊の髪を剃った道心
どんな伝承か
越後魚沼郡の関川村を流れる魚野川の橋を、寒念仏の道心源教老人が渡っていると、水の中から陰火とともに二十歳あまりの女が現れてすがりついた。古志郡縄手村の菊という者で、昨年の冬に身を投げて死んだ、明日は四十九日の逮夜なので回向してくれれば浮かばれる、ついては髪を剃ってほしいと頼む。剃刀がないので翌晩を約して別れ、源教は証人に七兵衛を呼んで戸棚に隠した。現れた幽霊の黒髪を剃ってやると、礼を言って消えた。七兵衛の発起で百万遍を修し、手元に残した髪を橋のたもとに埋めて石塔を建てた。関宿の毛塚がそれだという。
原典より
幽霊は何時か店に現はれ首を垂れてゐるので黒髪を剃つてやりしに礼を述べて消え失せた—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。