別所温泉に招かれた不遇の福来博士
どんな伝承か
一九六一年の夏、著者はふと思い立って信州の別所温泉に出かけ、北向観音に参った折に寺の僧から、本坊常楽寺の大僧正半田孝海がかつて福来友吉博士をこの地に招いたと聞いた。翌朝常楽寺の客座敷で会った老師は、博士が泊まったのはこの部屋だと語る。東大で博士の講義を受けた半田は、透視と念写の研究を迷信扱いされた博士が大学を去ったと新聞で知り、不遇の恩師を慰めようと温泉に呼んだ。ところが評判を聞いた村々から話を求められ、二人は小学校や集会所を七回ほど回った。疲れ果てた博士も壇に立てば顔を紅潮させて念写を語り、滞在中には自分も和尚になると漏らし、方々で『万理一空』と揮毫したという。
原典より
とにかく有名な、福来博士が別所に来たということは田舎の人々にとって大きなニュースであった。—— 霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年))
『霊の世界――小品集』は、田中千代松が新聞・雑誌に寄せた心霊研究の随筆や小論に手を加えて集めた心霊研究文庫の第三冊で、はしがきは一九七八年十一月の日付である。SPRの成り立ちや催眠術・超心理学の来歴、クルックスやフラマリオンを論じる文章のほか、土井晩翠・河上肇・福来友吉の挿話、平田篤胤が記した仙童寅吉、秋山真之の霊夢などを収める。「エッセイ種々」「群像」「ものがたり回顧」の三部に分け、多くの篇に初出の誌名と年月を添える。