天狗にさらわれた少年寅吉
どんな伝承か
文政三年十月一日の夕方、江戸の国学者平田篤胤の家を屋代弘賢が訪ね、天狗にさらわれて修業してきたという少年が山崎美成の家に身を寄せていると告げた。篤胤は文献の上でそうした話を信じていたので喜び、湯島天神の男坂下の自宅から下谷長者町まで歩いて向かった。会うと少年は十五歳というが十三ほどにしか見えず、目は大きく射るような光を放っていた。名を寅吉といい、下谷七軒町の商家の二男で、父を亡くしてから上野の家に奉公していたのを美成が引き取ったのだという。寅吉は五、六歳の頃から先のことを口にし、広小路の火事や父の怪我、押し入る泥棒を言い当てていた。火の手が見え、耳元がざわめいて声が聞こえるのだと本人は語った。
原典より
B 再生の少年C 霧島山の幽境D 天狗つきE 仙人河野久の体験F ある写本からG 秋山参謀の霊夢H 沖の叫び声—— 霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊の世界 ― 小品集(田中千代松・心霊研究文庫III・1978年(昭和53年))
『霊の世界――小品集』は、田中千代松が心霊研究について新聞・雑誌に書いた随筆や小論を集め、一九七八年に心霊研究文庫の第三冊としてまとめた本である。心霊研究協会(SPR)の成り立ちや催眠術・超心理学の来歴、クルックスやフラマリオンらの研究を論じる文章のほか、土井晩翠や福来博士の心霊体験、平田篤胤が記した仙童寅吉、秋山真之の霊夢などの話を収める。「エッセイ種々」「群像」「ものがたり回顧」の三部に分け、各篇に初出誌を記す。