松木事件
どんな伝承か
眞土村の戸長を代々務める旧家に松木長右衛門がいた。明治五年の地券発行を機に、長右衛門は村民から抵当として預かっていた四十九町歩の地所を自分の名義に書き換えて所有としたため、村民との紛擾が起きた。金が用意でき次第返すという約束で村民は讓渡証書に調印したが、いざ受け戻しに行くと期限切れだと言われ、返すとも金を受け取るとも言わない。裁判にも負け、小作料の滞納と長右衛門側の訴訟費用まで負わされることになった村方六十軒は、長右衛門一家を屠ると決めた。伊藤佐治兵衛と形上所左衛門は、彰義隊の際に木砲を造った大工の伊東音五郎を訪ね、木砲二門の製作を頼み、音五郎は味方することを決意した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が明治・大正の世に起きた事件や奇談を読み物に仕立てた実話集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十四年に千葉の久賀村で起きた鬼熊の事件など、一揆・殺人・盗みの事件、遺言状をめぐる話、奇人の話、幕末の暗殺を、関係者の話や記録をもとに描く。各話は章を立てた読み物で、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねて聞いた補遺を付す。