芝山内で拾った女給ふうの客
どんな伝承か
麻布の一ノ橋から金杉橋へ出て銀座へ向かうつもりだった慎次は、赤羽橋まで来て気が変わり、芝公園の方へ車を向けた。もう十二時を過ぎている。弁天池の前で緋のカーテンを下ろした車に追い抜かれ、妙な車だと思いながら芝山内の停留場まで来ると、街灯の下に女給ふうの女が立っていた。自由ヶ丘へと言うので走らせたが、女は口を半開きにしたまま眠っているように見える。目黒の競馬場を過ぎ、鷹番の手前で行き先を尋ねても返事がない。と、首筋を掴んで引かれた。振り向くと真っ赤な口を開けた顔が迫っており、慎次は気を失って杉の木に突っ込んだ。
原典より
* 王子稲荷の前 (375)* 消えてなくなった女 (376)* 日本橋まで (377)* 毒を仰いだ運転手 (378)* 母親に逢いに来た女 (378)* 芦屋の家へ帰る女 (380)* 月…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。