土蔵の壁に浮かぶ雨夜の顔
どんな伝承か
高輪の家では、雨の降る晩になると土蔵の右の壁に人の顔のようなものが浮かんだ。妻は雨染みだろうと思ったが、朝になると跡形もない。晴れた夜には何も見えず、降る夜には必ず現れるのだった。表にある石の土蔵にはほとんど物を入れていなかったのに、ある日小山内が探し物に入ると、扉の入口に『怪談乳房榎』の芝居番付が貼られていた。後に聞いたところでは、この家はもと大きな質屋の持ち物で、株の失敗から銀行に取られ、主人は土蔵の中で首を絞めたが死にきれず、庭の井戸へ身を投げたという。庭には注連縄を張った石の井戸があった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年))
『あの世はあった――文豪たちは見た!ふるえた!』は、三浦正雄と矢原秀人が二〇〇六年に著した、近代日本の作家や知識人の霊体験を紹介する読み物である。熱海の旅館で遠藤周作と三浦朱門が同時に遭った幽霊、佐藤愛子の心霊現象、菊池寛・宮沢賢治・小泉八雲・土井晩翠・新渡戸稲造・南方熊楠らの体験、夏目漱石の臨死体験を、本人や周囲の文章を引いて語る。一人一章の全十二章にまえがき・あとがきを添え、巻末に霊媒クランドン夫人の実験記録を付録として収める。