夕暮れに若者を誘う山の妖女
どんな伝承か
安房の山奥では、日暮れという恐ろしい時刻に不思議が起こると伝えられるが、安房郡平群村のあたりでは、山に棲む妖女がその時刻に人を誘いに来ると信じられていた。若い男は夜になると雪隠を座敷の内側に持ち込むほど恐れたという。子供が泣くと、あの山のおばが人を連れに来るぞと脅され、子守唄にも、寝ないと山奥の人喰おばが捕りに来ると歌われた。実際に妖女の美しさに惹かれて山に捕られた若者もあったといい、行方を尋ねる村人の呼び声が山谷に響いたこともあった。今も夜更け、遠い峰で妖女が白歯を噛み鳴らすような怪しい音を聞くことがあるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。