海底から引き揚げた明鐘の鼻の沈鐘
どんな伝承か
日本寺の本堂前にある鐘楼の鐘は、海から現れた沈鐘だと言われている。もとは下野の天龍寺の鐘で、戦の折に陣鐘として使われ、ついには海に捨てられたものらしく、明鐘の鼻の海底に沈んでいたと伝える。天保九年から数えてまだ百年に満たない近ごろに引き揚げられたといい、岩の間には石の槌で突いたような石壇が残っている。鐘が鳴らないときには岩に当たる響きがあったともいう。鐘が沈んでいた場所であることから、その岬は明鐘の鼻、明金岬と呼ばれるようになったのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。