山寺で画家が見た経帷子の女の幽霊
どんな伝承か
数年前、町田という若い画家が越後と越中の国境へ写生に出かけ、山の中で絵に夢中になるうち日が暮れた。宿が見つからず、ようやく探し当てた小さな山寺に頼み込むと、農夫のような五十がらみの住職が本堂に寝かせてくれた。夜更け、数人の男が白く細長い箱を本堂の中央に置いて去った。それは棺桶で、やがてめりめりと音がして経帷子の者が中に立ち上がり、近づいてきて町田の蒲団をめくり、青ざめた女の顔がのぞいた。そのあと住職の部屋で激しい物音と叫びがした。夜明けに見に行くと、住職は喉を血に染めて倒れ、そばに口元を血まみれにした女が横たわっていた。女は住職に捨てられて前日に死に、村人が寺へ棺を届けたのだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。