山蔦を掘られた杉田の山の神の怒り
どんな伝承か
『心霊と人生』に載った石塚直太郎の報告である。石塚は大正十二年三月、家族同伴で杉田の梅林へ観梅に行き、傍の山で山蔦を見つけたのでナイフで蔓を切り、根を掘って荒縄でからげ、東京本所の自宅へ持ち帰った。来客があったのですぐには植えず、玄関の横の石の上に置いて座敷へ上がった。すると同行していた夫人の態度がみるみる変わり、荒々しい声で「汝は何者だ」と言う。石塚が高見明神に奉仕するこの家の主人だと答えると、「予は杉田の山の神であるが、汝は生たる者の枝葉を切り、水もやらずに庭前へ置いてある」と詰め寄り、清水を与えよと大喝して去った。石塚は椎の古木の傍に丁寧に植え直したという。
原典より
* 怪火を見た経験 (336)* 帽子のない水兵 (337)* 狸の信号提灯 (338)* 妖女の舞踏する踏切 (340)* 怪火に浮ぶ白衣の男 (341)* 隧道内の怪火 (341)* 鉄道…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。