浪人の祈りに応えた江の島の弁天
どんな伝承か
江戸の中ごろ、田沼家の浪人某は若いころから江の島の弁天を深く信仰していた。参籠の折、一度でよいから生身のお姿を拝みたいと祈ると、ある夜、天女は内殿の扉を開けて姿を見せた。その美しさに恋いこがれた男が、ただ一度の契りで煩悩を救ってほしいと命がけで祈ると、結願の夜、天女は今宵一度限りと言って寝所に来た。忘れられず再び願うと二度目もかなえられたが、いつまでも契りをと迫ったとき、天女は男の貪欲を憎み、これ以上願えば命を奪い無間地獄に落とすと告げて消えたという。江の島の別当岩本院の先祖も弁財天に馴染んだという話を、『想山著聞奇集』は付け加えている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
講座日本風俗史別巻 妖異風俗((講座日本風俗史 別巻)・日本風俗史・民俗)
『講座日本風俗史別巻 妖異風俗』は、『講座日本風俗史』の別巻として、複数の執筆者が妖しく異様な風俗を論じた巻である。淫祠と性の祭礼、戦後の新興宗教、性にまつわる迷信、妖術・忍術・奇術、憑きものと特殊家系、心霊術と催眠術、異類との婚姻、性と怪異の関わりを、古典の随筆や各地の報告、事件の記録から取り上げる。九つの章に分け、終章「日本妖異風土記」では関東から九州・沖縄までの怪異譚を地方別・県別に掲げる。