治療を中断して祈り出す矢来町の歯科医
どんな伝承か
牛込矢来町は、十七万円を投じて支部を構えたほどのひとのみちの勢力地帯だった。ここには歯科医が二軒あり、片方は料金が高く、もう片方は信者で安かった。安くて悪かろうはずがないと、信者でない者まで安いほうへ通った。ところがこの歯医者、腕のほうは値段相応で、治療の途中で出血が止まらなくなると手が付けられなくなり、処置を中断して振り替えの神像に向かって祈り始める。その祈祷が長く、患者はたまらない。やがて客は高いほうの歯科医へ移り、信者である患者すら二度と行かなくなって、思わぬ幸いを得たのは高いほうの歯医者だったという。
原典より
三、人命を喪つたもの* 子供を欲した夫婦の盲信(金×教)* 生×の家に迷ひ一家悲運に陥る* 犠牲となつた夫* 狂信の果の愛娘虐殺(天×教)* 地獄の思ひ出* 兄を奪はれる* 「おふりかへ」悲話(ひ××みち)—— 邪教に迷はされた人々(好村春基・浅野研真ほか編・新興宗教・邪教批判) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
邪教に迷はされた人々(好村春基・浅野研真ほか編・新興宗教・邪教批判)
『邪教に迷はされた人々』は、新興宗教や祈祷・迷信に惑わされて被害を受けた人々の実話を集めた本である。ひとのみち・天理教・大本教などに絡んで、病人が医者から遠ざけられて死んだ話、精神を病んだ話、教主や行者から暴行を受けた話、家庭や財産を失った話を、遺族や民生委員の手記、『大法輪』昭和十一年の誌上報告などから収める。被害を医療妨害・精神障碍・人命・暴行危害・家庭破壊・物質的損害・一家没落・其の他の八類に分けて並べる。