観音院の狸に憑かれて名医になった女医者
どんな伝承か
板野郡藍園村大字奥野村の観音院という寺の本堂の屋根裏には、古くから一匹の狸が住んでいる。頭から背にかけては真黒だが脚は真白であるといい、実際に見受けた人も少なくない。今から三十五、六年前、奥野村から程近い川端村に一人の女医者があり、ある時この観音院へ参詣したところ、どうしたものか件の狸がこの女医者に取り憑いた。ところが憑かれて以来、女医者の診察は非常に精確になって不思議に的中し、薬もまた効験があって、どのような難病でも治らないことがなかった。評判は流行神のように高まり、門前は一時患者で市をなすほどであったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の狸の話(笠井)
『阿波の狸の話』は、脇町の笠井という著者が、阿波国の各地に伝わる狸の話を集めて書いた本である。狸同士の化かし合い、狸使い、狸憑き、狸医者、狸を祀る祠などを題ごとに分け、郡村名や人名を挙げて、明治・大正の狸憑きの実話やお六つ大明神の信仰の様子も記す。後半に余材追録と、著者が萬福寺で狸に憑かれる人や住職と問答した記録を置き、巻末の「阿波名狸録」で名のある狸を徳島市と各郡の部に分けて並べる。