狸を操って祈禱料を稼いだゼンキ
どんな伝承か
今から七八十年前、徳島の助任の西内というところに善吉という男がいた。土地の者はゼンキと呼んだ。働き嫌いの慾深者であったが、近くの藪に住む古狸を餌で手なずけ、毎日赤飯を炊いて少しずつ家へ近づけ、ついに自分の家の縁の下へ飼いこんだ。善吉はこの狸をけしかけて目をつけた家の人に取り憑かせる。その家が祈禱や祓で騒いでも、誰が帰れというまで帰るなと言い付けてあるので狸はとれない。途方に暮れたところへ善吉が現れ、私が追い払ってあげようと申し込み、祈禱の真似をしながら狸に帰れと言い付ける。先方は喜んで礼を弾む。こうして善吉は多くの人を苦しめ、金をまきあげて栄耀をしていた。
原典より
すけたふ今から七八十年前、徳島の助任の西内といふところに善吉といふ男があつた。—— 阿波の狸の話(笠井) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の狸の話(笠井)
『阿波の狸の話』は、脇町の笠井という著者が、阿波国の各地に伝わる狸の話を集めて書いた本である。狸同士の化かし合い、狸使い、狸憑き、狸医者、狸を祀る祠などを題ごとに分け、郡村名や人名を挙げて、明治・大正の狸憑きの実話やお六つ大明神の信仰の様子も記す。後半に余材追録と、著者が萬福寺で狸に憑かれる人や住職と問答した記録を置き、巻末の「阿波名狸録」で名のある狸を徳島市と各郡の部に分けて並べる。