狸神の名を名乗った手切煙草の男
どんな伝承か
今から二十四五年前、煙草専売法が実施されて間もない頃の話。当時は密売煙草や手切煙草への監視が厳重で、池田専売局の役人はこの地方の山村の巡廻を怠らなかった。ある時、その役人が山城谷村の伊豫川の街道で、手切煙草を喫んでいる百姓風の男を抑えた。男は住所姓名を聞かれ、山城谷村相川橋名、青木藤太郎と答えた。役人は翌日の出頭を命じたが、いつまでも出て来ない。葉書で召喚しても来ないので調べると、相川橋の付近で青木藤太郎といえば、相川橋の北岸に祭られた狸の神様より外になかった。山城谷全村を探しても同姓名の者はいなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の狸の話(笠井)
『阿波の狸の話』は、脇町の笠井という著者が、阿波国の各地に伝わる狸の話を集めて書いた本である。狸同士の化かし合い、狸使い、狸憑き、狸医者、狸を祀る祠などを題ごとに分け、郡村名や人名を挙げて、明治・大正の狸憑きの実話やお六つ大明神の信仰の様子も記す。後半に余材追録と、著者が萬福寺で狸に憑かれる人や住職と問答した記録を置き、巻末の「阿波名狸録」で名のある狸を徳島市と各郡の部に分けて並べる。