普賢寺の住職が強い狸の名で祓った狸憑き
どんな伝承か
那賀郡富岡町黒津地の普賢寺の先代住職吉田寛雄師は、狸使いと狸加持の名人として知られ、山伏や修験者の手に負えない狸憑きもたちまち退散させたので、頼みに来る者が絶えなかった。その様子を見た富岡町正福寺の今の住職によれば、ある日、狸に憑かれた女が加持を頼みに来たが、狸は手強くなかなか離れない。師が机を叩いて一喝し、数珠を揉んで呪文を唱え、北のほうにいる阿波でも名高い強い狸の名を二、三度呼ぶと、女は急に慌てて部屋を駆け回り、玄関から庭へ飛び出して倒れ気を失った。水を吹きかけると正気に戻り、裃を着て大小を差した侍姿の狸が出てきたように思うと語ったという。
原典より
那賀郡富岡町大字黒津地に普賢寺といふ寺がある。—— 阿波の狸の話(笠井) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の狸の話(笠井)
『阿波の狸の話』は、脇町の笠井という著者が、阿波国の各地に伝わる狸の話を集めて書いた本である。狸同士の化かし合い、狸使い、狸憑き、狸医者、狸を祀る祠などを題ごとに分け、郡村名や人名を挙げて、明治・大正の狸憑きの実話やお六つ大明神の信仰の様子も記す。後半に余材追録と、著者が萬福寺で狸に憑かれる人や住職と問答した記録を置き、巻末の「阿波名狸録」で名のある狸を徳島市と各郡の部に分けて並べる。