三倉と大谷の境の崎に響く偽汽車の音
どんな伝承か
阿南市長生町の、昭和二十年ごろの話。四国には狐がおらず狸ばかりだといわれ、筆者の郷里でも山の斜面や谷間、川の淵などに狸の話がいくらでもあった。長生平野に突き出した、三倉と大谷の境の小高い崎は、筆者が三倉の家へ帰るには必ず通る所だったが、梅雨どきや夏の終わりの天候の崩れた夜には偽汽車が出るといわれた。姿はなく音だけが汽車そのままで、千メートルほどの間を何度も行ったり来たりするという。そのため、そうした夜に帰りが遅くなると、わざわざ別の道を回って帰ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。