木製の弾しかない天満宮の高射砲
どんな伝承か
昭和十九年から二十年ごろ、徳島県阿南市長生町では、語り手の家の隣にある鎮守の天満宮が部隊の駐屯地になった。高射砲はたった一台きりで、撃つ弾は木製の模擬弾しかなかったが、兵隊たちはそれをぴかぴかに磨き上げ、撃て撃てと日に何度も訓練を繰り返していた。はるか上空では、銀色の芥子粒のような米軍機が下界には目もくれず、大阪へ一直線に飛んでいく。それを見上げながら高齢の兵たちが懸命に砲を磨く真剣さが、なんともおかしかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。