本土決戦に備え寺に陣取った通信隊
どんな伝承か
語り手の父は龍渓寺の二十八代目住職で、昭和十九年六月に召集令状を受け、三十六歳で海軍に入った。翌二十年五月、馬に乗った数人に率いられた兵隊の列が寺に入ってきた。護北第二二四五八部隊の師団通信隊と無線隊本部の百七十五名で、房総の地形が長期戦に向くとして、本土防衛のため寺に陣取ったのである。寺から二十分ほどの山には電気を引いた防空壕が掘られ、境内続きの雑木林にも壕が次々とできた。鶴舞の東でB29が撃ち落とされると、渡辺少佐らが捕虜を千葉市の憲兵隊まで護送した。八月十五日、兵隊は本堂のラジオで玉音放送を聞き、十月にはほとんどが引き揚げた。翌年三月、父の戦死の通知が届いたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。