遊女が普賢を現した室積の対面松
どんな伝承か
昔この里に武下殿という人がいた。その妻が深く仏法を信じたためか普賢菩薩が胎に宿り、月満ちて女子が生まれた。娘は成長して摂津国江口の里へ行き、宇治橋姫と遊んだという。そのころ書写の性空上人は生身の普賢を拝みたいと願っていた。夢の告げに従って江口へ赴くと、彩り舟の遊女が「周防なる室積の中の御手洗に」と歌う。上人が目を閉じると遊女は普賢の姿を現して偈を説き、目を開けば元の遊女に戻り、やがて舟ごと見失われて象の尾だけが手に残った。上人が室積の浦へ至って尋ねると、里人は近ごろ網で木仏を得たと答える。見ればまさに拝んだ尊容であった。上人は後世に伝えようと松を逆さに植え、それが今の対面松だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第10巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第10巻』は、全国の伝説を型ごとに分けて集めた叢書の一巻である。岡山・広島・山口の三県を伝承地とし、蘇民将来、吉備津彦と温羅、厚狭の寝太郎、化け猫、河童駒引き、夜泣き石、姥棄て山などの伝説を、聞き書きや市町村誌、民話集から採って収める。「文化叙事伝説」と「自然説明伝説」の部に分けて番号順に並べ、各話には伝承地と本文のあとに〔類話〕と近世の地誌などを引く〔文献〕を添える。