素性を密告されて曲げた地蔵の鼻
どんな伝承か
江刺郡黒石村の正法寺の境内に、鼻曲り地蔵という石地蔵がある。口碑によると、昔、源義朝の臣でヒタチカイドウという者が黒石付近の山に入って仙人の生活をしていた。退屈すると山を出て正法寺に参り、住職と四方山の話をするのを楽しみにしていたが、決して自分の素性は明かさなかった。ところが境内の石地蔵がそれを知っていて、ひそかに住職に告げた。ある夜、住職がそれをヒタチに言って鼻を明かすと、ヒタチは不審に思いながら寺を出た。門前の石地蔵が変に煙たい顔をしたのでそれと気づき、素性を喋ったのはお前だなと言って、いきなりその鼻をひん捻じ曲げた。今もそのままだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
農民俚譚(佐々木喜善(著)・本山桂川(編)・佐々木喜善・東北民俗・1934年(昭和9年))
『農民俚譚』は、佐々木喜善が書きためた昔話や伝説を、その没後に本山桂川が編んで昭和九年に刊行した本である。陸中の和賀郡・岩手郡・胆沢郡で集めた炭焼長者や瘤取爺などの昔話に、河童・山男・山女・人柱・蛇にまつわる伝説、地蔵の話、異類に嫁ぐ女の話を記した「縁女綺聞」、紫波郡の口碑による「鳥蟲木石伝」などを収める。郡ごとの昔話には大正十三年の日付の前書きが付き、巻末に本山桂川の追想「佐佐木喜善君の遺業と其晩年」を置く。