心を読む怪物思いと樵の斧
どんな伝承か
北国の山中には、狒々に似た獣の姿で人の心を見抜く「覚」という妖怪がいるとされ、富士山麓の地方ではこれを「思い」と呼んだ。昔、ひとりの樵が富士山麓の大和田山の森で木を切っていると、狒々のような怪物が不意に現れた。樵がぞっとすると、怪物は笑って今怖いと思ったなと言い、逃げようと思えば逃げようと思ったな、あきらめればあきらめたなと、心の内を次々に言い当てる。樵は仕方なく木割りを続けたが、割った木の大きな節が斧に当たって砕け飛び、その破片が怪物の目をつぶした。怪物は、思うことより思わぬことのほうが怖いと言い残して逃げ去ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・1986年(昭和61年))
『暮しの中の妖怪たち』は、岩井宏實が昭和六十一年に著した妖怪の概説書である。鬼・天狗・河童から山姥、産女、雪女、怪火、ザシキワラシ、化け猫、狐狸、幽霊まで、各地の伝承や古典・絵画に見える妖怪を一つずつ取り上げ、その姿と仕業を説く。第I章で個々の妖怪を紹介し、第II章で妖怪の性格、出現の空間と時、正体を論じ、巻末に著者が資料とした妖怪の本の一覧とあとがきを置く。