尻尾で庭を掃いた信太の森の狐女房
どんな伝承か
妻が病で実家へ帰って困っていた男が、釣りに出た折に川を流れてきた白狐を助けて家へ連れ帰った。狐は恩を返すと言い残して去り、やがて一人の女が訪ねてきて女中に使ってほしいと頼んだ。男の家に置くうちに二人の間には子が生まれた。ある日、子が「母が尻尾で庭を掃いている」と父に告げ、驚いた男が女を追い出そうとしたところへ本妻が戻ってくる。狐の女は、恋しければ和泉の信太の森へ訪ねて来よと詠んだ歌を書き残して山へ帰った。その後男の家の稲はよく実り、子はのちに鳥の言葉が分かる聴耳という宝を得たという。「葛の葉」「信太妻」とも呼ばれる異類婚姻譚である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・1986年(昭和61年))
『暮しの中の妖怪たち』は、岩井宏實が昭和六十一年に著した妖怪の概説書である。鬼・天狗・河童から山姥、産女、雪女、怪火、ザシキワラシ、化け猫、狐狸、幽霊まで、各地の伝承や古典・絵画に見える妖怪を一つずつ取り上げ、その姿と仕業を説く。第I章で個々の妖怪を紹介し、第II章で妖怪の性格、出現の空間と時、正体を論じ、巻末に著者が資料とした妖怪の本の一覧とあとがきを置く。