障子に影と歌を残して去った狐
どんな伝承か
歌舞伎の成り立ちには説経節が深く関わっており、『愛護若』『苅萱』『信太妻』『小栗』『さんせう太夫』が五説経と呼ばれる。その一つ『信太妻』で、自分の正体が狐だと見抜かれた女は、恋しいなら和泉の信太の森を訪ねて来てほしいという葛の葉の歌を障子に書き残し、去っていく。著者は、死んでなおこの世に思いを残し、その影を障子にとどめたこの女を、幽霊の原型の一つと見ている。
原典より
おのれの真の姿が狐だと見定められて、「恋しくばたづね来て見よ和泉なるしのだの森のうらみ葛の葉」と、障子に歌を書きのこして去ってゆく女は、…—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。