子に正体を言い当てられた狐女房
どんな伝承か
下総相馬郡赤法華村の農民孫右衛門から六世ほど前の孫右衛門が、江戸からの帰り、原で若い女に行き暮れたと呼びかけられ、同行して自分の家に泊めた。一両日のうちに振舞がまめまめしいので、孫右衛門の母が嫁にならぬかと問うと、女は親兄弟も頼る方もないと答えて従った。ほどなく男子が生まれ、その子が五歳のときまた男子が生まれた。冬、稚子に添乳して炉端でまどろんでいると、五歳の子が「かかさまの顔が狐によく似ている」と言った。女は身を翻して駆け出し、向かいの小高い山の狐の穴の口に、玩具の茶釜と煙管、書き置きらしきもの一通が残されていた。
原典より
冬のここにて稚子に添乳してしばし爐邊にまごろみしに五歳なりけり男子があはたゞしく、ててごよ見給へ、かかさまのかほがおこうかによく似たりこいふにおごろき、彼女は忽身を翻してかけ出てぬ。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。