向津の杉谷の池で河童が証文を書く
どんな伝承か
長門国大津郡の向津という出島に、杉谷の池という大きな池があった。国主の馬を預かる者が、放し飼いのため池のそばにつないでおいたところ、河童がその縄を体に巻きつけて池へ引き込もうとし、かえって絡まって動けなくなった。近くの者が集まって押さえつけ、向津の庄には後々まで住まないという証文を書かせ、河童の手に墨を塗って花押の代わりに押させてから放した。その後この庄内には河童が住まなくなり、証文は土地の神の祠に納められたという。貞享年中の出来事と聞いた、と「ありのまま」は記している。
原典より
向津一庄に後代に至るまで、住むまじきよしの券文をかき彼が手に墨をぬりて、花押こして是れを押し放ち歸しぬ。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。