高田城下で火にあたる狸
どんな伝承か
想山著聞奇集によれば、稲葉丹波守正通が京都所司代を退き、貞享二年に越後高田へ移ったとき、家士の大野与次兵衛も広い屋敷を与えられ、老母と京都から連れてきた老婆とで暮らしていた。雪深い冬の夜、与次兵衛が城に詰めている間に、見知らぬ若い下男風の男が台所に入り、老婆の囲炉裏で暖を取るようになった。男は老婆の故郷が京都の醍醐であることまで言い当て、やがて屋敷の裏に長年住む狸だと明かした。主人の出世を口添えしてほしいと頼まれると、狸は人間に生まれたいという自分の願いを語り、忠孝を尽くせと諭し、変事があれば知らせると約束したという。
原典より
或夜寒さも一入強く與次兵衛は例の夜詰に出で本家には老母さ老婆このみるすして居たりしに初更過ぐる頃、十七八歲斗りなる見馴れぬ奴僕一人、臺所の戶を外より明けて、…—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。