相撲人私市宗平の鰐退治
どんな伝承か
今昔物語の、相撲人私市宗平が鰐を陸へ投げ上げた話。四月ごろ駿河の清見浦で狩りをしたとき、背を射られた鹿が入り江を泳いで向こう岸へ逃げようとした。相撲人の宗平はすぐ海に飛び込んで後を追った。沖から白波が寄せて来るのを見た陸の人々は、鰐だと気づいて声を限りに呼んだが、宗平は無事だった。岸近くで鰐が鏡のような目をむき、剣のような歯の口を開けて迫ると、宗平は鹿の足を与えたとたん鰐をつかんで陸へ放り上げ、射手たちが仕留めた。なぜ噛まれなかったのかと問われると、鰐は餌を巣へ持ち帰って食べるので、来るたびに鹿肉を分けてやったのだと答え、その知恵は隣国にまで知れ渡ったという。
原典より
宗平が鰐に鹿の足を奥へたかと思ふと、突然鰐を捕へて陸へ投げあげた。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。