猪麻呂の娘を食った大わに
どんな伝承か
能義郡安来の浜にある毘売埼という岬の話。あるとき、この村の語臣猪麻呂の娘が浜で遊んでいたところ、不意にわにが現れて娘をさらった。猪麻呂は激しく怒り、天に叫び地に泣いて嘆いたが、どうすることもできなかった。そこで海辺に立ち、天の神々、地の神々、国中の社の神々に、娘の仇を討たせてほしいと祈りを捧げた。するとたちまち無数のわにが海面に浮かび、一頭の大わにを取り囲んで岸へ寄せてきた。大わにが猪麻呂の前で動かなくなったので、これを刺し殺して腹を裂くと、中から娘の脛が出てきたという。
原典より
ある時、この村の語臣猪麻呂といふ人の娘が遊んでゐると、突然「わに」が來て娘を捕へた。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。