親方と子方の間では起きない憑きもの
どんな伝承か
アフリカのアザンデ族では、妖術は貴族と平民のようなタテの関係では起こらず、貴族相互・平民相互のあいだで生じる。インド南部のマイソール地方でも、妖術は同じカースト内部にみられ、フォーマルに統制されたタテの関係では生まれない。島根県のT部落でも、親方(地主)と子方(小作人)のタテの関係や、同じ親方に仕える子方相互は統制されているが、異なる親方・子方集団のあいだは構造的に脆弱で、比較的摩擦が生じやすい。社会人類学者メアリー・ダグラスは、政治組織によって構造化されていない領域でのみ人は互いに妖術の非難を行なうと述べている。妖術信仰は曖昧な役割や関係を明確にし、社会の規範を再確認させる働きをもっている。
原典より
* 家単位の憑きもの現象* イギリスの妖術との比較* 憑く人の特徴(日本)* 憑く人の特徴(外国)* 憑かれる人の特徴* 社会統制の機能* 不幸を説明する機能* 妬み深い憑きもの—— 日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年))
『日本の憑きもの』は、吉田禎吾が一九七二年に著した人類学の研究書である。キツネ・イヌガミ・オサキなどの憑きもの信仰と、それを家筋で伝える憑きもの筋を、島根・高知・大分などの村での調査事例と古記録をもとに取り上げ、アフリカやヨーロッパの邪術・妖術と比べて論じる。三章立てで、憑きものの正体と特色、憑きもの筋の形成と伝播、憑きものが村落社会で果たす働きを順に述べ、注とあとがきを付ける。