隣のキツネモチの老婆にサバられた婦人
どんな伝承か
一九六八年七月、島根県能義郡のある村で、四十二、三歳の婦人が疲労を覚え、医者に行ってもよくならなかった。米子に出て、よく「サバリ」を当てるという祈禱師にみてもらうと、同じ部落の一軒おいた隣の七十四、五歳の老婆が「サバッテイル」ことがわかった。この老婆はキツネモチで、そのキツネが憑いたというのである。サバラれた婦人は「シロ」の方で、暮らしむきは両家とも中の下ほどだが、この「被害者」の家のほうが最近経済的によくなってきていた。それを老婆が妬んで憑いたというのである。婦人は出雲大社に行ってお祓いをしてもらい、治った。農村では、水争いや土地の境界争いが原因で「サバリ」が起こることもある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年))
『日本の憑きもの』は、吉田禎吾が一九七二年に著した人類学の研究書である。キツネ・イヌガミ・オサキなどの憑きもの信仰と、それを家筋で伝える憑きもの筋を、島根・高知・大分などの村での調査事例と古記録をもとに取り上げ、アフリカやヨーロッパの邪術・妖術と比べて論じる。三章立てで、憑きものの正体と特色、憑きもの筋の形成と伝播、憑きものが村落社会で果たす働きを順に述べ、注とあとがきを付ける。