出雲大社近くの狐の嫁入り行列
どんな伝承か
島根県立商業学校の教諭だった湯川氏夫妻が、明治三十三年十月に出雲大社の近くで見た狐の嫁入りである。日暮れから一時間ほどして、夫妻は杵築町の千家男爵邸を辞し、海辺の住まいへ裏道を西へ歩いていた。笹の茂る松山にさしかかったころ、道ばたでがさりと音がし、まもなく山の中腹が探照灯で照らしたように区切られて明るくなった。そこへ二階建ての立派な屋敷が現れ、障子は灯で赤く輝き、箱提灯を手にした奴が長持を担ぎ、駕籠が続く行列が幾組も庭の方へ進んでは闇に消えていった。近くの駄菓子屋の女主人を呼び出した途端に行列は消え、白い煙のようなものが残ったという。
原典より
妙だと見る内に、其明るみの中へ、二階建の宏壯な人家が現はれて、階上階下の各室の障子が、燈火で赤々と輝き、正面には立闘がある。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。