百足橋の猫と斥候役の狐
どんな伝承か
約九十年前、梅雨どきの雨の夜に、松江の北田町に住む藩士たちが舟を出し、東の郊外の市成の川で四手網を下ろしていた。その一人の渡部某が百足橋の南詰で網を張っていると、橋の上に猫が出て舟をのぞいて去り、続いて北の山手から狐が来て同じようにのぞいた。猫と狐が出たら次は恐ろしいものが来るという言い伝えを思い出した渡部は、舟に蓑笠で人の形をこしらえ、仲間の舟へ逃れて様子をうかがった。間もなく山の方から獣が躍り込んで人形に食いつき、去ったあと小山の方で断末魔の声がした。翌朝、山の入口で食い荒らされた狐の死骸が見つかり、斥候役の狐がしくじって殺されたのだと知れた。
原典より
夜は小暗く雨はソボ降る、漁獲物は少く何となく睡魔の催すのに堪えかねて居た折柄、橋の上に一正の猫が出て来て、 瞰して舟を窺つて去ると、…—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。