逆さ吊りの石狐が盗人を明かす
どんな伝承か
二十年ほど前、松江の雑賀町の薪炭商宇賀の家に泥棒が入り、着物十数枚が盗まれた。見舞いに来た隣家の中谷の女房が、久成寺の稲荷の石狐を一つ持ち帰って首を縛り、便所の上に逆さに吊って祈れば盗人が出るという禁厭を教えたので、宇賀の家では半信半疑で試した。やがて中谷の娘が学校で、宇賀の家が母さんを祈って喉を痛めたと言いふらすようになり、中谷の女房が喉を病んで寝ていると知れた。気味悪くなって石狐を返すと、まもなく警察の捜索で中谷の家から盗品が出て、女房は喉の病で亡くなったという。
原典より
奇怪至極な禁厭だから、宇賀方では、それを半信半疑に思ひ乍ら、ものは試しだと早速に教へられた通りにして何日も石狐を臭い所へ吊下げて置いた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。