持ち去られた松平稲荷の石狐の祟り
どんな伝承か
松江の旧城内にある松平稲荷には、願ほどきに奉納された石の小狐が千体ほども社殿のまわりに並び、小泉八雲が目を留めたほどの名作もあった。大正六年ごろ、東京から来て弟子を取っていた新派の画家大下藤次郎が、杵築中学の竹下教諭と連れ立ってこの稲荷を訪れ、ある石狐を気に入った。帰京後、竹下にその石狐を無断で持ち出させ、小包で送らせたところ、大下は数日もたたずに病に倒れ、治療のかいなく亡くなった。家族が石狐を竹下のもとへ送り返すと、竹下はその臆病さを笑って自宅に飾っておいたが、彼もまたにわかに病みついて間もなく死んだという。
原典より
スルト數日ならずして大下は病床に就き、醫療無効で死去した。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。