猫を熱湯で殺し猫のようになった男
どんな伝承か
明治十年四月、芝愛宕下桜川町の魚商吉野亀次郎の倅吉太郎十九歳は、生魚を選り分けていたところ、忍び寄った泥棒猫に魚を一尾くわえて逃げられそうになった。追っては間に合わぬと、煮えくり返る鉄瓶を掴んで投げつけると狙いは違わず、熱湯を浴びた猫は悲鳴一声、爛れて死んでしまった。家人は哀れに思い裏手の掃溜のわきに埋めてやり、吉太郎も手伝ったが、家へ入ると急に面色が変わり眼尻を釣り上げ、板流しの大鯛に飛びついて先刻の猫のように口にくわえて逃げ出した。捕えようとすると引っ掻き躍りかかり、襖障子で爪を研ぐ有様で、猫を殺した祟りだと大評判になった。
原典より
数日の後、愛宕下の某病院へ入院させたというが、とにかく猫のような真似をするので、さては猫を殺した祟りのためであろうと、当時大評判であったという。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。