石地で消えた侍と日光山の楼閣
どんな伝承か
享保三年のことと伝える。奥州のある藩の侍が柏崎へ向かう途中、石地の宿で馬を雇って荷を託し、自分は一足先に発った。ところが椎谷の問屋には侍が現れず、石地の町はずれを出て行く後ろ姿を見た者がいたきり、行方が知れなくなった。柏崎の陣屋が捜しても見つからず、死んだものとして荷は本国へ送られた。半年ほどのち、侍はふいに自宅の門をたたいて帰ってきた。石地を出たころ山伏と道連れになり、話しながら歩くうちに空を飛んでいて、険しい山中の美しい楼閣に着いた。そこは日光山だと山伏は言ったが、気づけば故郷の家の前に立っていたと語ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。