畜生谷で馬にされかけた石徹白の男
どんな伝承か
加賀白山の谷筋には、足を踏み入れた者が犬や馬に変えられてしまう畜生谷があると語られてきた。南の麓の石徹白から山へ入った男は、まだ日の高い夕刻だというのに、あたりが不意に闇へ包まれるのに遭う。灯りを頼りに一軒の家へ入り、老人にすすめられて湯につかっていると、背を流しにきた十六、七の少年が、自分はかつてこの家に奉公していた小二郎丸だ、ここは畜生谷だから早く逃げよと囁いた。驚いて走り出た男を老人が追い、馬沓を投げつける。それが踵に当たり、見ると馬の毛が生えていた。川を渡ると老人はもう追ってこなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語)
『日本人物語5――秘められた世界』は、日本人の暮らしの奥にある秘められた信仰や伝承を扱った叢書『日本人物語』の一冊である。境の神や通過儀礼を論じる序論に続き、入らず山や隠れ里、竜宮、平家谷、埋蔵金、生まれ代わり、あの世を見た話、魔法使い、生霊、秘密結社、狐憑きなどを、伝承と昭和三十年代までの新聞記事・見聞を織りまぜて述べる。序論「生活文化の秘密性――はじめに」の後、「奇蹟」「不気味な神々」などの区分の下に短い節を並べる。