水汲みの労に報いた岩肌の清水
どんな伝承か
ある年の秋の夕方、一人の婦人が鳥川の谷底から水を汲み、急な坂をやっと担ぎ上げてきた。そこへ通りがかったみすぼらしい旅僧に水を一杯求められ、婦人は苦労して運んだ水を桶ごと差し出した。旅僧はどこから汲んできたのかと尋ね、婦人は眼下百メートルほどの川を指して水汲みの苦労を語った。旅僧は気の毒がり、手にした杖の先で傍らの岩肌を喝と叫んで一突きした。引き抜くとそこから清水が湧き出し、婦人が驚きから覚めたとき旅僧の姿はなかった。この水は夏冷たく冬暖かく澄み、村人はいつしか弘法井戸と呼ぶようになったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第4巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第4巻』は、日本の伝説を話型ごとに集成した叢書『日本伝説大系』の一冊である。茨城・栃木・群馬の三県に伝わる伝説を、男体・赤城の神争いや榛名湖の入水譚、平将門・源義家・親鸞・弘法大師などの事跡、河童・竜宮・長者・石・姥捨・九十九谷などの話型ごとに収める。各項は代表となる伝承地の話を掲げ、〔類話〕に各地の聞き書きを伝承者名や出典とともに並べ、〔文献〕に縁起・地誌などの古記録を抄出し、柳田・高木による話型名を添える。