弟橘媛が身を投げた海と木更津の吾妻神社
どんな伝承か
日本武尊が東征のみぎり、相模から上総へ渡ろうとした。海は狭く対岸も指呼の間に見えたので、立ち走りにも渡れようと船を出したところ、海上でにわかに暴風が起こり、船は漂って進めなくなった。従っていた弟橘媛は、これは海神の心であろう、賤しい身をもって王の命に代えたいと言い残し、波の高い海へ身を投げた。やがて波はしずまり、尊の船は無事に対岸へ着いたという。尊が渡った海は、その言葉から走水と呼ばれるようになった。木更津の名も、尊が媛を思って去りかねたことによるとも語られる。津の北の吾妻には媛の袖が着いたといい、そこに媛をまつる吾妻神社がある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。