袖を触れても名乗れぬ父と子
どんな伝承か
筑前ほか六か国の探題守護を司った加藤左衛門重氏は、世の無常を感じて妻子を残し諸国修行に出た。残された妻は玉のような子を産み、石童丸と名づけた。石童丸は十四の春、父が高野におられると風の便りに聞き、母とともに紀州へ下る。しかし高野は女人禁制で、母は麓の宿に残り、父の人相を教えて子だけを登らせた。石童丸は谷々峰々の寺を尋ね歩き、下り坂で行き会った苅萱道心と袖を触れ合わせるが、たがいに親子とは知らなかったという。
原典より
月に村雲花に風散りて景なき世のならい筑前筑後肥前肥後大隅薩摩で六ヶ国探題守護を司る加藤左衛門重氏は娑婆の無常を感じつつ故郷に妻子を残し置き諸国修行と出で給ふみだい千里の胎内に十月余りの身を待ちて程なく安産なし玉ふ玉の様な…—— 日本伝説大系 第13巻(山中耕作・宮地武彦(執筆・整理)/荒木博之(解説)・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第13巻(山中耕作・宮地武彦(執筆・整理)/荒木博之(解説)・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第13巻――北九州(福岡・大分・佐賀・長崎)』は、福岡・大分を山中耕作、佐賀・長崎を宮地武彦が執筆・整理し、荒木博之が解説を担った伝説資料集の一巻である。姫島、うつぼ舟、百合若大臣、黒髪山の大蛇退治、平家谷、炭焼小五郎、河童、白米城など、北九州四県に伝わる伝説を題目ごとに収める。各題目は口承を重んじて選んだ例話を冒頭に据え、県別の類話を梗概にして伝承地と出典名を添え、近世以後の史料を文献として抜き出す編み方をとる。