白石の瀬の歌に引き返した西行
どんな伝承か
一世の歌聖西行法師は諸国歌行脚で球磨に行く途中、球磨川の風光をめでつつ白石の辺を通っていた。崖の上から流れを眺めていると、大きな岩陰で一人の娘がわたを洗っているのが眼についた。法師は川に下りて何を洗っているのかと問い、わたですと即座に答えたので、そのわたが欲しくて売るかと重ねて尋ねた。娘はすかさず、白石の瀬にすむ鮎の腹にこそうるかといえるわたはあるなれ、と一首の古歌を歌って返答した。西行は大いに驚き、こんな山深い里の賤女さえこの歌を知っていたとは恥ずかしくなり、球磨に来た道を引き返して行った。今も白石と小口の中間に西行帰岩と称する大きな岩山がそびえている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第14巻』は、熊本・宮崎・鹿児島の三県に伝わる伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。阿蘇の大鯰や海幸山幸など神話に連なる話から、為朝・景清・人丸姫の伝承、長者や河童・狐の話、池の主や大蜘蛛退治、狩人と犬の話までを収める。各項目は口承を重んじた例話を冒頭に据え、梗概にした類話と、『肥後国誌』など近世以後の史料を原文で引く文献を続け、全体を文化叙事伝説と自然説明伝説の部に分ける。