長渚の浜で釣られた兩倍魚
どんな伝承か
『釈日本紀』が肥後風土記を引いて記すところによれば、玉名郡長渚村にこんな話が伝わる。昔、大足彦天皇が球磨と噌唹を討って都へ帰る途中、この浜に御船を泊められた。船の左右には魚が群れ遊んでおり、吉備国の掉人であった朝勝見が釣ってみると数多く獲れたので、これを天皇に献じた。天皇が何という魚かとお尋ねになったが、朝勝見は名を知らず、鱒のようですと申し上げるほかなかった。天皇は御覧になり、俗に数の多いものを爾倍佐爾というが、今献じられた魚もこのように多いのだから兩倍魚と呼ぶがよいと仰せられた。今この魚を倍魚というのは、その縁によるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第14巻』は、熊本・宮崎・鹿児島の三県に伝わる伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。阿蘇の大鯰や海幸山幸など神話に連なる話から、為朝・景清・人丸姫の伝承、長者や河童・狐の話、池の主や大蜘蛛退治、狩人と犬の話までを収める。各項目は口承を重んじた例話を冒頭に据え、梗概にした類話と、『肥後国誌』など近世以後の史料を原文で引く文献を続け、全体を文化叙事伝説と自然説明伝説の部に分ける。