汲み出せば雨が降る重忠の鬢だらい
どんな伝承か
長瀞町矢那瀬、波久礼宿の荒川の岸に、秩父重忠の鬢だらいという石がある。高さ三丈ほど、上部が一丈余りで裾が広がり、石の上に深さ一丈ばかりの薬研形の穴があって、百日の日照りにも水が涸れないと言い伝えられる。世の中が旱魃になると、村人は蓑笠を着け雨具を用意してこの水を汲み出す。すると晴天が次第に曇り、残らず汲み出すころには雨が降り出して、鬢だらいの水がもとどおり一杯になるまで決してやまないという。畠山重忠が髪を撫でつけたという伝説から鬢盥と書き、この雨乞いの習わしから別に雨乞い石とも呼ばれる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。