お万を奪った渕と願いをかなえる万じゅ渕
どんな伝承か
大滝村落合を流れる荒川の中ほどに一つの渕があり、祈れば願いがかなったという。普寛の生家に伝わる話である。昔、普寛の家にお万という一人娘がいて、夜ごと婿にしてほしいと通ってくる若者がいたが、娘は聞き入れなかった。素性を知ろうと娘は若者の髷に長い糸を通した針を刺し、糸をたどると荒川の渕に出た。渕のそばまで行くと、娘はいつのまにか沈められてしまった。家の人が川を探すと渕から人が浮かび、どこからか声がして、娘は渕に入って帰れないが、代わりに願いは何でもかなえる、使い終えたら必ず返せと告げた。以後、欲しい物を紙に書いて渕に浮かべれば必ず浮いてきたが、返し忘れがあってからは何も浮かばなくなったという。
原典より
大滝村落合を流れる荒川のまん中ほどに一つの渕があった。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。