三十年目に知った椚村の初恋ばなし
どんな伝承か
奥武蔵で民話を集めていた著者は、三十数年ぶりに越生の新井良輔さんと会い、石仏を撮るため梅園から越辺川沿いを案内してもらった。最勝寺の六地蔵の道しるべを写したが、後で古い採集手帳を開くと同じ石仏が克明に写生されていて、記憶のはかなさに驚いた。昔、学生服の新井さんと椚村を訪ねて戸田当正さんの家に泊まった朝、膳を運んできた洋装の娘に著者は一目で心を奪われた。それは戸田さんの妹で小学校の先生だった。ところが今回、翌日訪ねた多武ノ峰の武藤家の娘が新井さんに一目惚れしていたと聞かされ、著者は人生の偶然の面白さをかみしめた。
原典より
三十年たった今では、どちらもそんな初恋ばなしを、大きな声で笑いながら語りあえる年齢なのである。—— 秩父・奥武蔵伝説たわむれ紀行(神山弘・1984年(昭和59年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
秩父・奥武蔵伝説たわむれ紀行(神山弘・1984年(昭和59年))
『秩父・奥武蔵伝説たわむれ紀行』は、神山弘が一九八四年に著した伝説探訪の紀行である。越辺川の流域や高麗郷、富士山のある村々、竹寺、武甲山と三峰山、宝登山、釜伏峠と粥新田峠など埼玉県西部の山村を歩き、土地の古老からの聞き書きと『新編武蔵風土記稿』などの記録を交えて、竜や大蛇、天狗、幽霊、将門などの伝説を語る。土地ごとの章に小見出しを立てた随筆体で、著者の前著『ものがたり奥武蔵』で扱わなかった土地を主にとりあげる。