昔の海の名残の沼が並ぶ槲の純林
どんな伝承か
外南部の東通村には、人が忘れたかと思うほどの槲の純林が残っていた。秋の初めの頃、著者は尻屋崎の灯台を見たのち山を越えて、尻労の昆布採る浦に泊まり、翌朝は姉弟二人の小童を案内に連れて、猿ヶ森という部落を見に行った。路は南へ三里余りの平地であったが、日の照る午前十時前後なのに、ついに一人の通行者にも逢わなかった。密林の端に小川が流れ、それを渡って曲がるとにわかに明るくなり、そこは槲の林であった。樹林のはずれには小さな沼がいくつともなく一列に繋がっていて、それはことごとく昔の海の断片であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。