二匹の蛇の死骸と唸り声の若夫婦
どんな伝承か
語り手が十一、二歳の頃、母の生家がある名古屋の古沢町九丁堀へ、真夏の昼下がりにおそらく盆の届け物の使いで行くと、二軒長屋の前に巡査まで出た人だかりがあった。のちに大人たちの噂で知ったのは、前の晩、結婚して半年にもならない若夫婦の新妻が台所で夕飯を作っていると、天井のない棟から絡み合った二匹の蛇が落ち、驚いて煮立ったうどんの鍋を投げつけ殺してしまったということだった。その夜を過ごした若夫婦は、翌朝になっても雨戸が開かず、うなり声がするので母親が入ると、二人の体が離れなくなっていた。外科医も手を出せず、近くの寺の住職が蛇の祟りだから千人の目にさらせば戻ると告げ、見物が千人に達すると体が離れたという。
原典より
と思ってなおよく見ると、なんとそれは白ぼけた二匹の蛇の屍体ではないか。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。