安達が原の鬼婆と如意輪観音の矢
どんな伝承か
旅の僧祐慶は、老婆に見るなと言われた奥の間を覗いた。そこには骸骨が二つ三つ、腐りきらぬ肉片や髪を長く引いたもの、切り口に血のりを付けたものが無雑作に転がり、腐肉の悪臭が漂っていた。鬼婆だと悟った祐慶は暗い原を一目散に逃げたが、戻った老婆は白髪を逆立てて安達が原へ追って出た。追いつかれて打ち伏した祐慶が、笈の如意輪観音に経を唱えると、虚空に観音の姿が立ち、鬼婆めがけて矢を放った。鬼婆は絶叫を残して息絶えたという。付記に、阿武隈川の東岸が古の安達が原であり、橋を渡ってすぐ左手の大杉の下にある塚が、鬼婆を埋めた黒塚だとある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が昭和四十一年に著した伝説集である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、東京から九州まで各地に伝わる狐・狸・蛇・河童・天狗・幽霊にまつわる奇談と怪談を、伝えられた形をなるべく崩さずに読み物として書き直している。全四十五話をおおむね東から西へ並べ、多くの話の末に、ゆかりの寺社や旧跡へ行く「順路」を付ける。