蚊帳の外であやす戦死の叔父
どんな伝承か
利根川優子が小学校にあがる前、三歳か四歳の夏のことである。父母と兄姉とともに蚊帳のなかで眠っていた夜中にふと目を覚ますと、仏壇と蚊帳のわずかな隙間に、見たことのないおじさんが坐っていて、よしよしとあやしてくれた。幼いなりに笑ってみせると相手はひどく喜び、またあやす。その夏、それが何度か続いたが、家の者は誰も気づかず、優子も親には話さなかった。戦後五十年という年の夜、父が戦争の体験を語り出したのをきっかけにその話をすると、父と母は驚いて顔を見合わせ「リキや」と言った。背格好も角刈りの髪も、戦死した父の弟に間違いないという。こんなことなら早く話すのだったと優子は悔いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。