蚊帳の外であやす戦死の叔父
どんな伝承か
利根川優子が小学校にあがる前、三歳か四歳の夏のことである。父母と兄姉とともに蚊帳のなかで眠っていた夜中にふと目を覚ますと、仏壇と蚊帳のわずかな隙間に、見たことのないおじさんが坐っていて、よしよしとあやしてくれた。幼いなりに笑ってみせると相手はひどく喜び、またあやす。その夏、それが何度か続いたが、家の者は誰も気づかず、優子も親には話さなかった。戦後五十年という年の夜、父が戦争の体験を語り出したのをきっかけにその話をすると、父と母は驚いて顔を見合わせ「リキや」と言った。背格好も角刈りの髪も、戦死した父の弟に間違いないという。こんなことなら早く話すのだったと優子は悔いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』を小話単位で全699話収録。死の知らせ・予兆、あの世(地獄・極楽)へ行った話、死者からのサイン、生まれかわりなど、生死とあの世にまつわる現代の民話を全国から採集し地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明606話・市区町村判明489話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。